施工管理にとって労災事故は必ず避けなければならないものであり、そのための対策はなによりも優先して行う必要があります。
しかし、万が一労災事故が起こってしまった場合、その責任は具体的にどのように問われるのでしょうか?
そこで本記事では、労災事故が起こった場合、具体的にどのような責任を問われる可能性があるのか解説したいと思います。
労災事故が起こったときの責任はどうなる?
労災事故が起こると、大きく「民事責任」と「刑事責任」に問われる可能性があります。
これら責任は、おもに使用者が負うことになりますが、ケースにより被災者と雇用関係にある事業者や、あるいは元請業者などが対象となることもあります。
なぜなら、使用者には、職場における労働者の安全を確保しなくてはならないことが法律によって定められているためです。
また、重大な労災事故が起こってしまうことがあると、「民事責任」や「刑事責任」だけでなく、マスコミ報道などによって「社会的責任」を問われる可能性もあります。
労災事故の民事責任について
労災事故が起こると、使用者は民事責任が問われる場合があります。
民事責任とは、おもに被災者が労災事故によって被った損害に対する賠償責任です。
まず、労災事故が起こったときには、労働基準法の「使用者の労災補償責任」の規定により、労働者に対して災害補償をしなくてはならないことが定められています。
そして、この補償が確実に履行されるために設けられているのが労災保険制度です。
しかし、場合によっては、労災事故によって被った損害を、労災保険ですべて補てんできるとは限りません。
その場合に「損害賠償請求」となるケースがあるわけですが、このときの法的根拠となるのは、大きく以下の2点が挙げられます。
- 安全配慮義務の債務不履行責任
- 不法行為責任
■安全配慮義務の債務不履行責任
労働契約法では、使用者の労働者に対する安全への配慮義務について以下の規定があります。
労働契約法 第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
以上のように、使用者には労働者への安全配慮義務が定められていますが、これに違反が認められると、債務不履行として損害賠償責任の対象となる場合があります。
よって、施工管理は、日ごろから安全確保のための対策を十分に講じておく必要があるのです。
■不法行為責任
民法では、不法行為による損害賠償について以下の規定があります。
民法 第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
以上のように、故意または過失によって他人の権利を侵害したことが認められるケースでは、損害賠償責任の対象となる場合があります。
つまり、職場において労働者の安全が確保できていないために起こった労災事故が、使用者の故意または過失によるものであるというケースです。
労災事故の刑事責任について
被災者が死亡した場合や重大災害が発生した場合は、使用者は刑事責任が問われることがあります。
刑事責任とは、犯罪行為として刑罰の対象となる、きわめて深刻な制裁です。
死亡災害や重大災害が発生すると、労働基準監督署と警察により、発生原因を明らかにするための立ち入り調査が行われます。
刑事責任を問われるときの法的根拠となるのは、大きく以下の2点が挙げられます。
- 労働安全衛生法違反
- 業務上過失致死傷罪
■労働安全衛生法違反
労働安全衛生法には、労働者の危険または健康障害を防止するための事業者が講ずべき措置についていくつかの規定があります。
例えば、一定の危険な作業については作業主任者を選任して労働者を指揮させなければならないこと、また機械や引火性のものによる危険の防止措置を講じなければならないことなどです。
労働者の安全を守るため事業者に義務付けている措置はこの他にもありますが、これらに違反すると労働安全衛生法違反となって刑事責任を問われる可能性があります。
労働安全衛生法違反の刑事責任を問われた場合、罪状ごとに定められている罰則を受けることとなります。
■業務上過失致死傷罪
業務上過失致死傷とは、業務を行ううえで必要な注意を怠った結果、労働者を死傷させることをいいます。
例えば、クレーン作業中に必要な注意を怠ったことにより資材が落下して発生する重大な労災事故などです。
業務上過失致死傷罪で刑事責任を問われた場合、「5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」という罰則を受ける可能性があります。
まとめ
現場で労災事故が起こると、被災者は一定期間仕事ができなくなることから、家族を含めて多くの人が辛い思いをすることになるでしょう。
また、事業者や元請業者などは、場合によっては労災事故の責任を問われる可能性もあります。
そのため、施工管理の立場としては、日ごろから安全配慮義務を怠ることなく、十分過ぎるくらいの対策を講じておくことが重要です。
労災事故が起こってからでは取り返しがつかないことは、いうまでもありません。
よって施工管理者は、すべての業務のなかでも安全管理については、とくに優先して取り組む必要があるでしょう。